ぽんごぽんご族が「ひみつのいりぐち」からの航海を経て「ひみつ工場」にやってきてからしばらくの日にちが過ぎた。
すぐにまた壮大な航海がはじまるのかと思っていたら、彼らは陽がな一日秋風に吹かれていたり、晴れた日は日向ぼっこをして過ごしている。
「航海には出ないのかい?」
そう聞いてみると、彼らはにやりと笑ってこう言うんだ。
「まぁ、待て。風をまっているんだよ」
と。
「風?」
「そうだ、風だ。ぼくらがcafeころんまでの距離をただ航海していっては危険が大きすぎる。でも、風があれば一飛びだ。」
彼らの言葉の意味を測りかねながらも、その雄大な雰囲気にぼくはちょっとわくわくした。
「風はいつ吹くんだい?」
わくわくしながら聞き返すぼくの問いに彼らはいつもこう言った。
「待つことだ」
そして、台風18号がやってきたんだ。
この日、彼らは雨に打たれながらずっと空を眺めていた。「茶色ニワトリ号」にはすでに乗組員が乗り込んでいる。
「まさか、風って台風のこと?」
「そうだ、もうすぐ風がふく。ぼくたちはそれにのるんだ」
その時だ。
一陣の強い風が吹いた。
その瞬間!
彼らの船「茶色ニワトリ号」は帆にいっぱいの風を受け、そして飛びだったんだ!
彼らは風をまっていた!そして、文字通りcafeころんまでの航海を飛んでいくつもりだったんだ!
ぼくは彼らの船影がみえなくなるまでその雄姿を見送った後、慌てて車でcafeころんまで向かった。
でも、ついてみると彼らの姿は影も形もない。
少しずつまた台風18号が接近してきているようで風雨が強まってくる中、ぼくはcafeころんを飛び出して彼らの声が聞こえないか街を彷徨い歩いた。
キネマ通りを通りかかった時だ。
彼らの声が聞こえたんだ。
「ここだ!」
と。
でも、周囲を見渡しても誰もいない。それに雨風の音が強くなりすぎてごうごうと音を立てて渦巻いている。
「どこだ!?」
「ここだ!」
少し声が近づいたように思って、周囲を見渡した。
「あ!」
月に一度しか開かない不思議な不思議なお店。
その名も「ガチャ萬商会」。
屋根には車よりかかる不思議な光景の中に、同じように斜めに突き刺さっている「茶色ニワトリ号」の姿が!
「なんでそんなところに?」
「風が巻いたんだよ。まぁ、よくあることだ」
そうなの?船が飛ぶなんてこともあんまりないことだろうし、船がこんなところに挟まっているのをぼくははじめてみたけれど。。。
「そんなことより手伝ってくれ!ここから脱出出来たらすぐにまた航海続けられるんだ!」
そんな怒鳴らなくても。。。それにこういう時はすぐに使われるんだから。。。
割り切れなく思いながらも「茶色ニワトリ号」を救い出した。
「よし、ついてこい!」
雨で出来上がった水たまりにざぶんと浮かんだ「茶色ニワトリ号」はゆっくりとその舳先をcafeころんの方に向けて進みだした。
それにしても人使いの荒いぽんごぽんご族たちだ。
ぼくは雨の中を進む「茶色ニワトリ号」の後ろを同様に雨に濡れながらついて行った。
風に煽られ激しく上下することはあっても、「茶色ニワトリ号」はまっすぐとcafeころんを目指して進んでいった。
そして、ついにcafeころんへ至る坂道に差し掛かったんだ。
小川のように流れる雨水の中を順調に航海は続き、「茶色ニワトリ号」の背景に浮かび上がってきたのはcafeころんの姿。
そして、遂にぽんごぽんご族はcafeころんへの航海をやり遂げた。
cafeころんの玄関に着くや否や、かれらは次々ところんへの上陸を果たした。この日のcafeは「トナカイ食堂」さんだったんだけど、そのみんなに大歓迎を受けながら、彼らはまっすぐに工房を目指して歩いていった。
もちろん、彼らの目的はシフォンケーキ工房とシフォンケーキそのものだ。
「これがオーブンというものか!」
焼き終わった直後のまだ熱さの残るオーブンの上でぴょんぴょんはねながら興味深げにのぞき込むぽんごぽんご族たちのを焼き上がり直後のシフォンケーキの下に案内した。
「おぉ!」
「ふわふわだ!」
「あまい香りだ」
とシフォンケーキのホールを取り囲むぽんごぽんご族たち。
「これが見たかったんだ!」
「うむうむ」
「これはいいものだ」
いや~、なんかそんなに感動されちゃうと照れくさくなるなぁ。。。でも、あのひみつ工場から空を飛ぶような冒険をしてやってきたその目的を達成した彼らの喜びが伝わってきて、ぼくもとてもうれしかった。
もちろん、ひみつの販売所も案内した。今ではひみつではなくなってしまって、cafeころんの一番目立つ場所に置かれてはいるけれど。。。
一通り、cafeころんとシフォンケーキを楽しんだ彼らは、このままここに住み着くことになった。
「ひみつのいりぐち」
「ひみつ工場」
「cafeころん」
こうして、ちゃんちき堂のシフォンに関わるところにはすべてぽんごぽんご族が住まうことになったんだ。そう、彼らこそ、シフォンケーキの妖精、そしてちゃんちき堂の守り神としてやってきたんだろう。
ところで。。。
「実は、ちゃんちき堂のシフォンケーキが置いてある場所がまだあるんだけど。。。」
「なに!?
彼らの旅はまだ終わらないかもしれない。。。