もう、何年も前の話。
少しずつ消化して、ようやっと今なら書いてもいいかなって思ってキーボードをたたいてみています。
注文いただいたのはプレーンのシフォン。
注文してくださったのはホスピスの職員の方。
そこのホスピスは癌患者さんがほとんどで、患者さん、そしてご家族の人生の質を豊かに送るための心身の苦痛を和らげる場所でした。
職員さんはお食事会をやるんだ~とおっしゃっていて、そのお食事会でも患者さんはそれぞれ食べられる量も少なく、食べられるものも限られる。。。でも、流動食一色じゃなくておいしいものを少しだけでもって考えていらっしゃって、その中でちゃんちき堂のシフォンを選んでくださったのデス。
お渡しする当日、なんの変哲もないシフォンだけど、なんだかそっとお渡ししました。
何日かして、その職員さんとお会いした時に教えていただきました。
患者さんの一人が、お食事会の二日後に亡くなったとのことでした。
「最後に食べたのがちゃんちき堂さんのシフォンだったんだよ」
「もう、なにも食べられない状態だったんだけどね、シフォンだけはひとかけら食べられて、そしておいしいネって言ってくださったヨ」
ぼくら夫婦、なんにも言葉にできなかった。こういう時に出てくる言葉ってないもんだって思った。未だに言葉出てこない。ぼくらが普段使っている言葉は本当に毎日続く日常の中の言葉なんだとなぜかとても想った。
どんな人生を歩まれた方だったのか。
どんな表情で食べてくださったんだろうか。
最後は痛みとかなかったんだろうか。
人は生まれてきたからには必ず死んでいくけれど、その死んでいく時に寄り添うホスピスという仕事、職員の方の生き方に心から尊敬を覚えつつ。
自分たちも管につながれて、苦しい思いをして、生を引き延ばされることよりも、穏やかに緩やかに終末を迎えたいとも思いつつ。
そして、出会ったことも、どのような人生を過ごされたのかもわからないけれど、ただ、その方の一生の最後の食事にシフォンを選んでいただいたことの、なんというか畏れというか感動というか。
ぼくらは忘れないって思った。
そうやってぼくらの焼くシフォンを食べてくださった方がいらっしゃったことを。
ちゃんちき堂のシフォンを食べてくれるたくさんの方。
それを思って焼く時もあれば、機嫌が悪かったり、体調が悪かったり、ぼやっとして焼いてる時もあるけれど。。。
選んでくれるみなさんの風景を想いながら焼こうって思ったの。
今でもたまに想い出してはそう想うの。毎日じゃないけれど。
「おいしかったですか?」
「ありがとうございました」
「おやすみなさい」
そう、呟きながら。。。